押尾被告に求刑6年、検察「犯情は悪質」

合成麻薬MDMAを一緒にのんだ東京・銀座のクラブホステス、田中香織さん(当時30)を救命しなかったとして保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判が14日、東京地裁で開かれ、検察側は懲役6年を求刑した。判決言い渡しは17日。法曹関係者からは「軽すぎる。8年が妥当では」との厳しい声も出ている。一般感情が大きく左右する裁判員裁判だけに、求刑より重い判決が下る可能性もありそうだ。

 1年以上にわたって芸能界を揺るがし、1人の女性が亡くなった薬物事件が結審した。求刑は懲役6年と、所持していた新種の合成麻薬TFMPPの没収。検察側は「自己保身のために田中さんを見殺しにした犯情は悪質。証言でウソを繰り返し、反省の情は皆無」と厳しく断罪した。

 求刑を言い渡された瞬間、無表情だった押尾被告は裁判員の方を向いて深いため息をついた。無罪を主張していただけに動揺は隠し切れず、後方の弁護人に突然振り向いて話しかけるなど、そわそわした素振りを見せた。

 だが、傍聴席は対照的だった。「なぜ?」。多くの人が隣同士、お互いの顔を見合わせ、疑問の表情を投げかけた…。暴力団が少女に覚せい剤を注射し、放置して死亡させた事件で懲役8年が下った最高裁判例から、同じ8年ぐらいとみられていたためだ。

 検察は6年の理由について、香織さんが自らの意思でMDMAを服用したこと、押尾被告が昨年11月に受けたMDMA使用罪の執行猶予が取り消され、懲役1年6月が加算されることを考慮したことを挙げた。

 しかし、刑法に詳しい日大の板倉宏名誉教授(76)は「求刑を超える判決が出たケースもある。私は8年が妥当だと思う」と言い切った。

 その理由として「香織さんの両親が保護責任者遺棄致死罪の最高刑(懲役20年)を望んでおり、数多くの隠蔽工作をするなど刑事責任は非常に重い。両親の訴えは裁判員の心に響いているはずです」と説明した。

 実際に裁判員裁判では、今年5月に強制わいせつ致傷罪で懲役7年の求刑を上回る懲役8年の判決が初めて下るなど、複数の判例が出ている。

 市民の日常感覚や常識を判決に反映させ、司法に対する国民の理解と信頼の向上を図るために導入された制度だけに、世間の注目が大きい押尾裁判で「求刑超え判決」が出る可能性も十分にある。注目の判決は、17日午後3時に下る。