中国で“中華ロイド”を買っちゃった!

中国では2010年5月以降、Androidを搭載したタブレットバイスが次々と登場した。最近の中国で登場するデジモノの多くは、深センで携帯電話などを作っているある程度の技術を持った工場から、淘宝網(TAOBAO)をはじめとしたオンラインショッピングサイトを通して直売される。こういう「ネット直販限定ブランド」は地味に報道されつつ人柱志望のユーザーが購入して、それから企業がメーカー保証をつけてパッケージングした製品を販売する流れになる。この流れの中で、Android搭載タブレットバイスの多くは、「ネット直販限定ブランド」が流通している段階なので、ほとんどの都市において電脳街や携帯電話ショップの店頭で見ることはない。ニュースで大きく報じられないこともあって、2010年が押し詰まったいまになっても“知る人しか知らない”ガジェットの扱いを出ない。

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 そんなかで、飛びぬけた知名度を誇っているのが“iPad”を意識したデザインでなにかと物議を醸し出した国美電器(gome)ブランドの「Fly Touch」(飛触)だ。国美電器は中国2大家電量販店の1つ(もう1つは、日本のラオックスを買収した「蘇寧電器」)で、中国全土の省都をはじめ、省の第2第3の都市にも店舗を持つ。ならば、中国全土に展開する国美電器の店舗で売っていそうだが、店頭販売は北京や上海などの一部地域だけで試験的に行っているだけだ。

 中国有数の規模を持つ量販店が「iPadの対抗製品をiPadよりも低価格で」とリリースしたにも関わらず、中国の掲示板やブログ、そしてIT系ニュースサイトで「iPadのパクリ」と厳しく非難されている。大規模量販店だからできる「保証とプリインストールソフト」という中国製デジタルガジェットでは非常に珍しいサービスを提供しているにも関わらず、中国メディアの多くが「OEM元へに対する仕入れ値の倍の価格設定で暴利をむさぼっている」と糾弾したりと、国美電器にとっては実に厳しい状況になっている。

 それに追い討ちをかけるように、「アプリケーションや保証なんぞいらないでしょ?そんなことより低価格っすよね!」という中国市場の特質をよく理解している多くのオンラインショップから「あの国美電器が売っている“Fly Touch”と同じだから安心できる製品」とアピールする「ノンブランド」の類似品も多数販売されている。

●性能向上、サイズも向上のFly Touch後継モデル

 国美電器のFly Touchは201年6月に発売を開始している。CPUはARM 9ベースのVIA WM8505+(動作クロック533MHz)、7型ワイド(解像度800×480ドット)のタッチパネル内蔵ディスプレイを搭載して本体サイズは 128(幅)×199(高さ)×14(厚さ)ミリ、重さは約370グラム。インタフェースとして本体にmicroSDカードスロットと2基のUSB 2.0(専用コネクタに接続する外付けユニットを使って有線LANと一緒に用意される)、ステレオスピーカーなどを備えるほか、IEEE 802.11 b/g対応の無線LANが利用できる。値段は999元(約1万2500円)だ。

 さらに、国美電器はFly Touch発売3カ月後の9月末に、Android 2.1を導入した後継機「Fly Touch II」(飛触二代)を発売した。10.2型ワイドディスプレイ(解像度1024×600ドット)を採用したことで本体サイズが171(幅)×271(高さ)×11(厚さ)ミリ、重さ約1280グラムと大きくなったが、CPUにARM11ベースのInfo TM X220(動作クロック1GHz)を採用して高速化した。本体搭載のインタフェースもMini HDMIが加わりmicroSDカードスロットが2基になるなど拡張されている。無線LANIEEE 802.11b/g/n対応と強化された。

 Fly Touch IIは、国美電器の上海にある一部の店舗限定で1999元(約2万5000円)で販売されているが、その一方で発売して間もないFly Touch IIを淘宝網でも半額の1000元弱(約1万2500円)で扱っており、人気のあるオンラインショップでは月100台以上売れている。

 この好調な販売の理由になっているのが、店頭の半額という価格設定のほかに、100元弱(1000円強)と安価で提供されているキーボード内蔵の専用ラバーケースだ。本体購入者の多くが一緒に購入している。かくいう筆者も、Fly Touch IIには何の興味も持たなかったのだが、かつてキーボードレスタイプのVAIO Type Uで用意された専用キーボードに似たデザインを見た瞬間に、購入ボタンを押していた。

●中華ロイドが来た!開けた! え、かっこいい……

 Fly Touch IIは、購入するショップによってパッケージの名称が異なる。が、ハードウェア構成や梱包物は同じだ。筆者が購入したのは「Super PAD」というパッケージで、起動するとシステムの表示が中国語になっているが、Androidの言語とキーボードの設定を工場出荷時の簡体字中国語から日本語に替えるだけで日本語環境になる。Super PADに内蔵されたキーボードは、以前筆者が使っていたVAIO Type U付属のキーボードに比べて打鍵感が劣るが、まったく使えないわけでもない。価格相応と考えれば納得がいく。それより、キーボードの打鍵感より本体のカバーを兼ねているという点でSuper PADの評価は高くなる。

 このSuper PADパッケージでは、中国製メディアプレーヤー「CCPlayer」がインストールされている以外にアプリケーションは入っていない。とはいえ、中国で販売されている“正規流通版”のiPhoneiPod touchiPadでは、YouTubeGoogle Mapが“国の事情”でメニューに表示されないが、Super PADでは、ほかのAndroidタブレットバイスと同様に表示される。ただ、中国で必ずPCにインストールするチャットソフト「QQ」の Android版が(マーケットなどで用意されているにも関わらず)インストールされていない。

 中国のユーザーにはAndroidタブレットバイスがQQを含むコミュニケーション利用やビジネス利用ではなく、単なるコンテンツプレーヤーとして認識されているのだろうか、と考えて中国のIT系Webページに掲載されているAndroidタブレットバイスのレビュー記事や「インストールしておきたいソフト10選」といった記事をみてみると、確かに音楽共有サイトや動画共有サイトを利用するためのアプリケーションばかりが紹介されている。このあたりに、中国のユーザーにおけるAndroidバイスの認識が見えてくる。

●そんな中華ロイドの行く末はどっちだ

 そんな筆者のFly Touch IIが故障してしまった。保証がある国美電器ではなく、何の補償もない代わりに半額のオンラインショップで購入した製品なので、日本の常識では、「そりゃあんた、購入者の自己責任でしょ。面倒みませんよ」となるが、中国ではリアル店舗でもオンラインショップでも、まずは電話をかけて修理を依頼してから故障した機材を送り、正常動作の機材と「無料で」「交換してもらう」のが基本だ。

 筆者も、中国滞在中に数え切れないほどの中国メーカー製品が故障してきたが(本当によく故障する!)、いずれも無料ですぐ交換してくれた。今回も「突然動かなくなったのですが」と電話で状況を説明すると、「じゃあ送ってください。工場で原因をチェックすると時間がかかるから、新品をすぐ送ります」と返答があり、数日後には新品が届いた。中国のサポート恐るべし。

 中国で流通しているタブレットバイスで、iPadAndroid搭載スレートPCはどちらが優位だろう? ある程度デジタルガジェットを使いこなせるユーザーの間では、安価で評判が“悪くない”Androidに人気が集まっている。ただ、所得が低い農村部の人々が安価なAndroidタブレットバイスを購入するというのは、このカテゴリーの流通が上海や北京といった大都市の店舗とオンラインショップに限定されていることと、安価でも売れなかったNetbookの実績を考えると考えにくい。

 iPadは“脱獄”前提で利用するのが“中国標準”(だって、海賊版を入れるんだもん)なので、アプリケーションコストはiPad(ということは iPhoneも)もAndroidも条件は同じだ。さらに、見栄えとステータスを大事にする中国では、iPhoneiMacが金持ちをアピールできる重要なアイテムと認識されており、富裕層の必需品となっている。それに比べて、現状のAndroid搭載タブレットバイスは、ガジェットギークの“おもちゃ”という地位でしかない。ハイエンドな多機能モデルは一定のシェアを取るだろうが、Andriod搭載タブレットバイスは、Netbookと同じように、中国では「メーカーから数多くの製品は出るが、一般のユーザーにはウケない」という道をたどりそうな気がしてならない。【山谷剛史,ITmedia